私たちは生きていくために、栄養を体に取り込む必要があります。しかし、ただ栄養を摂取すればよいということであれば、時間をかけて食事を作らなくても、栄養剤を点滴などで注入すればよいということになってしまいます。私たちは、口から食事を摂取することによってさまざまなメリットを手にしています。今回は、口から食事をとることの重要性について詳しく説明していきます。
1. 栄養を摂取する方法
私たちが栄養を摂取する方法として、主に3つの方法があります。
1) 経口摂取
口から食べ物を取り入れて、咀嚼(噛んで)して、食べ物の塊をまとめて、飲み込むという嚥下(えんげ)を行います。歯が弱くなっていたり、飲み込む力が弱くなっていたりして嚥下機能が低下している場合には、誤嚥(ごえん:間違えて気管へと食塊が入り込んでしまうこと)のリスクが高まるので、その人の嚥下機能に合った食事形態を選択します。
2) 経管栄養
① 経鼻経管栄養
経管栄養はチューブやカテーテルを使って胃や腸に直接必要な栄養を注入する栄養摂取方法です。短期的に経管栄養が必要な方(手術後や嚥下障害が一時的で治りそうな場合)には、経鼻経管栄養を利用します。経鼻経管栄養は鼻から胃までチューブを通して栄養を直接注入します。
経鼻経管栄養のメリットとしては、穴をあけるなどの手術の必要がなく、すぐに始めてすぐにやめることができることが挙げられます。デメリットは、簡単に抜くことができるので、誤って引き抜いてしまったり、長期的には利用が難しいため、何度も入れ替える必要があり、入れるときに毎回苦痛を伴ってしまうことです。
② 胃ろう
胃ろうは、お腹の外から胃に直接穴をあけてチューブをつなげて栄養を注入する経管栄養です。誤嚥のリスクが高い人や、長期的に経管栄養の必要性がある人に適しています。
胃ろうのメリットとしては、鼻からチューブを通すよりも、利用者様の負担が少なく栄養を注入することができる点です。デメリットとしては、まず胃ろうを作るために手術が必要であることや、胃ろう部分に皮膚トラブルが出現したりする可能性もあることが挙げられます。また、半年に1回程度定期的にカテーテルを交換する必要があるので、費用や手間がかかります。
③ 腸ろう
腸ろうは、お腹の外から腸に直接穴をあけて栄養を注入する経管栄養です。手術などによって胃が切除されてしまっている人など、胃ろうができない人が対象で行われます。腸ろうのメリット・デメリットは胃ろうとほぼ一緒です。腸に直接栄養剤を注入するので、下痢を起こしやすくなったり、ゆっくりと注入しなければならないところもデメリットと言えます。
3) 経静脈栄養
① 末梢静脈栄養
手や足の静脈に点滴を挿入して栄養を注入する方法を末梢静脈栄養と言います。末梢静脈栄養は1週間以内などの短期で、胃や腸管などの消化管が機能していない人への栄養注入方法です。手や足の静脈は、細いため高濃度の栄養を注入することが難しいため、1日に投与できるカロリーの上限は1000kcal程度なので、栄養を短期的かつ補助的に補充したい人に向いています。
末梢静脈栄養のメリットとしては、消化管が機能していなくても、栄養を摂取することができることです。しかし、デメリットとしては、投与できるカロリーの上限が決まっているため、この末梢静脈栄養だけでは、長期間の栄養管理はできないところです。また、高カロリーの輸液は血管に負担がかかってしまって、血管が炎症を起こしてしまったり、点滴を挿入している部分から感染を起こしてしまう可能性もあるため、定期的に点滴を入れ替えなければならず、対象者への身体的な負担もあります。
② 中心静脈栄養
手や足などとは違い、心臓に近い位置にある太い静脈に点滴を入れて栄養を注入する方法を中心静脈栄養と言います。一般的には、鎖骨の下や首を通る太い静脈に中心静脈カテーテルと呼ばれる比較的太い点滴の管を挿入して、考課ロリーの点滴をします。
中心静脈栄養のメリットとしては、太い管を太い血管に挿入するため、末梢静脈栄養よりも高カロリーの2500kcal程度の栄養を投与することができることが挙げられます。そのため、胃腸などの消化管を使うことができない人や栄養状態がよくない人を長期的に栄養管理するために向いている栄養補給方法と言われています。
デメリットとしては、中心静脈カテーテルを挿入するために、医師による一定の手技が必要であることや、挿入部分から感染症を起こす可能性があることなどが挙げられます。鎖骨の下や首には、静脈の他に太い動脈が通っていたり、肺が近くにあったりします。そのため、手技を誤ってしまうと、違う血管を傷つけてしまって血種(血の塊)ができてしまったり、誤って肺を傷つけてしまうと肺気胸(肺に穴があくこと)や血胸(肺に血がたまること)を起こしてしまったりする危険性もあります。挿入部から感染症を発症した場合には、挿入し直したり感染症の治療を行わなければなりません。また、高カロリーの輸液を投与するため、急激に血糖値が上昇してしまうこともあります。特に糖尿病が持病にある人は、血糖値のコントロールが難しくなってしまうことがあるので注意が必要です。
2. 口から栄養を摂取するメリット
① 食べるための機能を維持することができる
私たちがご飯を口から食べるとき、手を使って食べ物を口に運びます。そして口をあけて食べ物を口の中に入れます。この動さだけで、手や胸、背中、顔などの様々な筋肉を使っています。そして、口の中に取り込んだ食べ物を口の中で噛むとき、歯や歯ぐき、顔周りの筋肉を使います。また、同時に食べ物をまとめやすく、飲み込みやすくするために唾液が分泌されます。口の中で食べ物をまとめて飲み込む際には、顔周りの筋肉や口の中の筋肉が使われています。同時に間違って気管の方や鼻の方へと食べ物が入り込まないようにふたがされる反射が起こります。このように、私たちは口から栄養を取り込むために、さまざまな筋肉や器官を使っています。これらの筋肉や器官は使わなければどんどん衰えてしまいます。食べ物を食べるために必要な筋肉や器官が衰えてしまえば、誤嚥(誤って気管の方へと唾液や食べ物が流れ込んでしまうこと)を引き起こしてしまう可能性が高くなります。誤嚥は、食べ物だけではなく唾液でも起こります。例えば、寝たきりの方で、嚥下機能が低下してしまい、寝ている間に唾液を誤嚥して肺炎になってしまうことも少なくありません。
食べる力が弱くなっているからと言って、食べないようにすると、ますます力が衰えてしまい誤嚥のリスクが高まります。食べる力が弱くなってきたときには、専門家に適切な嚥下評価をしてもらい、その人に合った食事形態のものを食べてもらうようにすることが大切です。そして、食事以外の時間でも、口や顔の筋肉を動かす体操をしたり、誰かとお話をしたり笑ったりすることでも、筋肉が動かされて、筋肉が衰えるのを予防することができます。食事以外の時間も、顔の筋肉をしっかりと動かすようにするとよいでしょう。このように、私たちは口から適切な形態の食事を摂取することによって、食べるための機能を維持することができ、誤嚥を予防することができます。
② 生きる喜びを持てる
私たちは、どんな方法であれ、ただ必要な栄養を摂取していればよいというわけではありません。身体的には、栄養が取れていれば満足かもしれませんが、心は満足できないことがあります。目で色鮮やかな食事を見たり、いい匂いの食事を前にして気分が晴れたりすることもあるでしょう。あたたかい料理を食べて、心がほっとすることもあるかもしれません。味覚を使い、食事を食べるときにいろんな話をしてその時間を楽しむこともできます。そのように、私たちは食事をするときに、ただ栄養を摂取しているわけではなく、5感を使って食事を楽しみ、生きる喜びを感じています。そのため、嚥下機能が低下してきたとしても、できるだけトレーニングを行ったり、食事形態を工夫したりして、口からご飯を食べられる期間を少しでも伸ばすようにするとよいでしょう。
③ 低栄養状態を予防することができる
高齢者の低栄養は非常に大きな問題です。栄養状態が悪いと、元気が出ないだけでなく、筋肉が衰えて転倒しやすくなり寝たきり状態になりやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりします。他にも、認知機能が低下してしまったり、感覚機能が低下してしまったりすることもあります。低栄養は寝たきりの状態の人の床ずれの原因の1つでもあります。さらに低栄養状態は、ADL(日常生活動作)を低下させる大きな要因となるため、健康寿命を延ばすためには、できるだけ予防する必要があります。
私たちは、口から食事を摂取することで、食べ物が消化管を通るため胃や小腸、大腸などを活発に動かすことができます。これらの消化管は、消化吸収に欠かすことができない、消化酵素を分泌したり、蠕動運動(食べ物を前へ押し出す運動)をして消化を促します。日常的に、消化管を動かしておくことによって、栄養の消化や吸収をスムーズに行うことができ低栄養の状態を予防することができると考えられています。そのため、栄養状態が良い状態を保つために口から食事を摂取することが重要になってきます。
3. 口からの食事摂取で気をつけること
① 誤嚥
口からの食事を摂取する上で、1番気を付けなければいけないことは誤嚥です。誤嚥は、ただむせるだけではなく、肺炎や窒息の原因になります。これらは、時として命に関わる危険な状態になることもあります。誤嚥を予防するためには、日々口や顔周りの筋肉を使うようにトレーニングをしたり、誰かとしっかりとおしゃべりをすることも大切です。他にも、食事形態は嚥下機能に合わせた適切なものを選択する必要があります。嚥下機能は、きちんと専門家の人に定期的にチェックしてもらい、その人に合った食事を食べてもらうようにしましょう。それでも、どんなにトレーニングをしていても徐々に嚥下機能が落ちてしまうことがあります。食べ終わるのが遅くなったり、食べた後に咳込んだり、突然高い発熱が見られたときなどは、誤嚥している可能性があるため、医療機関へ相談するようにしましょう。
② 口腔ケアをしっかりと行う
口から食事を摂取する場合だけではありませんが、食事の際には口腔ケアをしっかりと行うことが非常に重要です。口の中が清潔に保たれていないと、むし歯になってしまいます。いくら嚥下機能が保たれていても、歯が健康でなければ固いものなどを噛むことはできずに、食事を楽しむことはできなくなってしまいます。また、万が一誤嚥をしてしまった場合、唾液に細菌が多く含まれていると肺炎になるリスクが高まります。
他にも、口腔ケアをすることによって、口の中に適度な刺激を送ることができるため、嚥下機能が向上しやすくなったり、唾液の分泌が促されるため口の中の自浄作用が働きやすくなります。さらに口の中の異常にいち早く気付くことができます。
口の中が清潔に保たれていると気分もさわやかになって、精神的にもよい作用があると考えられています。
口腔ケアは感染症予防やむし歯予防、誤嚥性肺炎予防などの観点から、非常に重要であり、口から栄養を摂取しない経管栄養の人でも必ず毎食行う必要があります。
4. まとめ
私たちが生きていく上で、栄養を摂取することは欠かすことができません。しかし、どのような方法でもいいから栄養を摂取すればよいということではありません。私たちは、口から食事を摂取することによって、生きる意味を見出したり、栄養状態をよりよくすることができたりします。口から食事を摂取する機能を維持することは、健康寿命を延ばすことにもつながります。
しかし、加齢や病気などによって、人の嚥下機能は徐々に低下していきます。そのようなときに無理に口から食事を摂取してしまうと、誤嚥をしてしまう可能性が高くなります。そのため、その人の嚥下機能を適切に評価し、その嚥下機能に適した食事を摂取することが重要になります。嚥下食を毎食用意するのは大変で、なかなか継続できるものではありません。まごころ弁当では、毎日日替わりのメニューで、嚥下機能によって食事形態を選択することができます。口から食事を楽しむ時間を少しでも長く保てるように、1度まごころ弁当を試してみてはいかがでしょうか?